a)『次郎長三国志 第八部 海道一の暴れん坊』(マキノ雅弘)★★★★
b)『次郎長三国志 第九部 荒神山』(マキノ雅弘)★★★★
『海道一の暴れん坊』もシリーズ中では異色篇(にして最高傑作)なのだが、『荒神山』のあのただならぬ感じは何なのだろう。異様である。これは単にこの作品が前編のみで後編のない尻切れトンボに終わっているというよく知られた事実だけが原因ではないような気がする。この作品において明らかにマキノの関心は次郎長一家を離れ、やくざの抗争によって巻き添えを食う農民たち(人民!)へと移行しているような印象を受ける。まさか同時期に撮られた『七人の侍』の悪い影響ってこともないだろうし。周りを深い闇に包まれた観音像に祈りを捧げる次郎長一家の面々を背後から捉えたタイトルバックも異様だし、冒頭十分経過するまで一家が現れず、しかも登場する際に農民たちを包囲するようにエコーのかかったオフの声をしばらく聞かせ、背中からフレームインするというのも変(てっきり吹き替えの役者を使っているのかと思った)。この異様さについてはしばらく考えてみる必要が。そういえば十五年くらい前に旧文芸坐のオールナイトで『江戸の悪太郎』をうとうとしながら見た時も何か悪夢を見ているような異様さを感じた。