a)『コンナオトナノオンナノコ』(冨永昌敬)○
この映画作家については『VICUNAS』以来、新作が出るたびにフォローしていて、『亀虫』第三話で猫がちょこんと上に載ったテレビの画面に競馬中継が映るショットを目にした時は素直に「すげえ!」と思ったものの、『シャーリー・テンプル・ジャポン・パートII』、『パビリオン山椒魚』と個人的には期待外れな作品が続いたために、正直なところ興味を失ってしまった(それはこれらに共通する「小劇場的」な(?)世界観を私が好きになれなかったからでもあるが)。またこの作品については公開当時、まともな批評を目にした覚えがなく、さらにその後、映画作家本人と知り合い、前作のような感想(「駄作」と書いた)をうっかり漏らすこともままならなくなったことも相まって、ついずるずるとこれまで見過ごしてしまったのだが、「シネ砦」での(赤)氏の賛辞を目にし、半信半疑で(失礼!)見てみると、これが実に素晴らしい作品で、自らの不明を恥じたのだった。
厩舎の二階から階下に横たわる妊娠中の(?)馬を共に見つめることで心を通い合わせる水橋研二とエリカのシーンでの垂直軸の切り返しの使い方などは実に素晴らしい。実は前半、ブニュエル的な妄想シーンでの風船にはしらけかけたし、オシャレな音楽で場を持たそうとしてないかという疑惑も生まれかけたのだが、上述の厩舎のあたりから作品にすっと引き込まれた。トウモロコシの思わせぶりな使い方も個人的にはどうかとは思ったが、それをラスト近くで無声映画的なオーバーラップを使った箪笥の中の水橋とエリカの会話へとポジティヴに反転してみせるあたりもよい。なによりも素晴らしいのは登場人物たちを見つめる映画作家の眼差しだろう。もしこの素敵な小品に一つだけ文句をつけるとしたら、フレーム外に存在しているはずの世界からのノイズが私たちの耳にまで届いてこなかったことぐらいか。『パンドラの匣』に期待。